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その手数料は適正か? ゲームストアの功罪:但木一真連載『ゲーム・ビジネス・バトルロイヤル』 第3回 | WIRED.jp

Mine Sasaki

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YouTube投稿者のMakaMakesは、「フォートナイト」の「クリエイティブ」モード(ゲーム内のオブジェクトを自由に配置し、自分だけのマップをつくれるモード)を駆使して「スター・ウォーズ」シリーズのヴィークルを驚くほどの精度でつくりあげ、その制作過程の動画を投稿している。

AT-AT ウォーカー」「ミレニアム・ファルコン」、そして巨大な「スター・デストロイヤー」──。ユーザーはMakaMakesが公開しているコードをゲーム内で打ち込めば、精巧につくられたヴィークルの内部を探索できる。

ほかにも世界中のクリエイターが、クリエイティブモードを使ってマップやゲーム内ゲームをつくり上げ、ネット上にコードを公開している。運営会社のエピックゲームズは、ユーザーの自作コンテンツを公式にキュレーションする仕組みも開始した

「フォートナイト」はプレイヤーが集まる「サードプレイス」として進化するとともに、空間やゲームをデザインする創造性豊かなクリエイターたちが利用するゲームエンジンとしても機能し始めている。プレイヤー、動画配信者、クリエイターといったあらゆるユーザーを巻き込みながら、ゲーム世界は拡張し続けているのだ。

関連記事:「フォートナイト」のようなオンラインゲームは、現代の“サードプレイス”になる

“30パーセント”からの解放

「フォートナイト」は“世界最高のゲーム”の地位を築きつつある。全世界のユーザー数は3億5,000万人を超え 、ゲームの仮想空間の中でトラヴィス・スコットがライヴを開催し、名だたる企業がこぞってコンテンツ広告のコラボレーションを模索している。2019年には、18億ドル(約1,935億円)という巨額の収益をあげた

「フォートナイト」を引っ提げて群雄割拠のゲーム産業でのし上がろうとするエピックゲームズにとって、目下の課題はオンラインのゲームストアが徴収する手数料だった。

ゲーム開発企業は、モバイルゲームであれば「Google Play」と「App Store」、PCゲームであれば「Steam」をはじめとするストアにソフトを供給する。ストアはソフトの売り上げとゲーム内課金の一部を手数料としてゲーム会社に請求できる。手数料の相場は30パーセントだ。だが、エピックゲームズはこの商習慣に異議を唱えた。

PCゲーム・家庭用ゲームとして成功を収めた「フォートナイト」のAndroid版を2018年8月にリリースする際に、エピックゲームズはAndroidの正規のストアであるGoogle Playにはゲームを掲載せず、自社のウェブページから直接ダウンロードさせる方法を採択した。Google Playの運営企業であるグーグルに、何億ドルという手数料を支払わないためだ(iOS版「フォートナイト」はApp Storeで配信されており、2020年4月までに累計約10億ドル[約1,075億円]近くの収益を上げた。単純計算で3億ドル[約322億円]がアップルに支払われていることになる)。

さらにエピックゲームズは自社タイトルのみならず、あらゆるゲーム企業を“30パーセント”の手数料から解放するための取り組みを始めた。2018年12月にPCゲームのストア「Epic Gamesストア」をオープンし、手数料率を12パーセントに設定した。オープンに際し、公式ブログ記事は以下のように述べている

「私たちの目標は、プレイヤーの皆さんに最高のゲームをお届けすると同時に、ゲームデベロッパの方々により良い利益をもたらすことです: (プレイヤーの)皆さんが費やした金額の88%がデベロッパに分配されます。これに対し、他のストアでの利益分配はわずか70%です。このシステムはデベロッパが成功を収め、さらに多くの魅力的なゲームを生み出すのに役立つでしょう」

Epic Gamesストアに対して、ユーザーは概ね否定的だった。Steamが長年プラットフォームとして拡張してきた機能 (クラウドセーブ、レヴュー、実績システムなど)の多くが初期のストアには実装されておらず、出来の悪い後継サーヴィスだとみなされたからだ。

「メトロエクソダス」がSteamでは配信されず、ストアの独占配信になると発表された際には、一部のユーザーが抗議として「メトロ」シリーズ過去作にレヴューボム(ネガティヴな評価を大量に投下しコンテンツの売り上げに影響を与えようとする行為)をおこなった。

だが、ユーザーの脊椎反射的な拒否反応から距離を置いてEpic Gamesストアを冷静に評価するなら、拡大するゲーム産業において収益がどのように配分されるかという“取引の公正さ”にかかわる根本的な課題を浮き彫りにした点だろう。

ひとつのタイトルがユーザーの手元に渡るまでの流通プロセスには多様な企業がかかわっているが、取引によってそのなかのどの企業が得をし、どの企業が割りを食っているのか。わたしたちがゲームを消費し、支払う金によって、制作にかかわった人たちは本当に報われているのだろうか。

パッケージからオンライン、そしてD2Cへ

ゲームにおける流通は時代とともに変化している。映画や音楽業界と同様に、ロムカセットや光学ディスクに入ったソフトを小売店が販売する“パッケージ販売”から、オンラインのゲームストアが配信する“デジタル販売”へのシフトが顕著だ。

1983年に発売されたファミリーコンピューターの大ヒットに伴い、家庭用ゲームにおけるパッケージ販売の流通が確立された。ゲーム企業はハードウェア企業にソフトの製造を委託し、製造されたソフトが問屋に出荷され、最後にゲーム専門店や家電量販店といった小売店に卸される。

かつては新作ゲームが発売されると多く人が小売店に押し寄せた。1988年の「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」の発売日に全国各地で発生した行列は語りぐさになっている。新作のドラクエを購入するために学校を欠席して列に並んだ児童・生徒が補導され、テレビのニュース番組でも取り上げられた。

家庭用ゲーム機がインターネットに接続されるようになると、ハードウェア企業はダウンロードによってソフトを購入できるストアをオープンした。小売店に並ばずともストアにアクセスすることで最新のゲームを手に入れることができ、品揃えも豊富だ。家庭用ゲーム市場におけるデジタル販売が占める割合は年々増加傾向にあり、パッケージ離れは進んでいる。

PCゲームにおけるデジタル販売へのシフトはさらに顕著だ。SteamやEpic Gameストアのように汎用的な(多様なソフトを取り揃える)ストアや、エレクトロニック・アーツやアクティビジョン・ブリザードによる自社ゲーム専用のストアが流通の大半を占めている。

大手ゲーム企業が自社ゲーム専用のストアを運営する理由は、エピックゲームズと同様に30パーセントの手数料を回避するためだ。流通に登場する仲介業者が少なければ少ないほど、ゲーム企業は販売活動に要するコストを抑えられる。

加えて、SNSやオウンドメディアを通じてユーザーと直接つながっていれば、企業はわざわざ仲介業者や小売店を使って販売網を張り巡らせる必要もない。ゲーム企業はユーザーとつながるマーケティング施策によって手数料というコストを削減し、ソフトウェアの利益率を上げることができるのだ。

エピックゲームズによる30パーセントの手数料に対する挑戦は、ゲーム企業のD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)化が進む時代の象徴的な出来事だった。自社のストアを用いた直接販売への移行は、巨大プラットフォームに反旗を翻し、より“公正な取引”を模索するゲーム企業による開戦の狼煙である。

サブスクリプションと所有

ゲームの流通における最近のトレンドは、クラウドゲーミングのサブスクリプションサーヴィスだ。グーグル、アップルといった巨大IT企業がこぞって参入し、家庭用ゲーム機を製造・販売するソニーやマイクロソフトもサーヴィスを展開している。2020年現在においては音楽や映画におけるサブスクリプション(例えばSpotifyやNetflix)のような勢いはないものの、長期的には市場における存在感を増していくだろう。

巨大IT企業によるサブスクリプションへの参入は、D2Cに舵を切り始めたゲーム企業に対するけん制ともとれる。ハードウェアやストアの制約から逃れ、ランチャー(ストアへのアクセス、ソフトの起動・更新などの機能をもったアプリケーション)を介して直接取引を始めたゲーム企業からもう一度ユーザーを取り戻すための戦略だ。

デジタル販売、そしてサブスクリプションという流通の変化は、ゲームを所有するという考え方を根本的に変えつつある。パッケージ販売におけるロムカセットや光学ディスクといった「モノ」が姿を消し、ストアからデータだけをダウンロードするようになった。さらにはゲームを丸ごとダウンロードする必要すらもなくなって、クラウドに存在するデータにアクセスすることとゲームをプレイするという行為がイコールになる。ソフトがモノとして流通せず、サーヴィスとして提供されるという変化(とそれを意図したゲーム企業の戦略)は “Games as a service(GaaS)”と呼ばれている。

どれほど愛を注いでも

“サーヴィス化されたゲーム”は、とらえどころのない概念だ。ユーザーはゲームを所有しない。デヴァイスにわずかばかりのローカルデータが保存されているだけで、その大半はクラウド上に漂っている。それゆえ、サーヴィスの契約が続く限りはそのクラウド上にあるゲームにアクセスできるが、金を支払わなくなればゲームにはアクセスできなってしまう(一部のセーブデータなどは保存されているにせよ、だ)。ゲームがサーヴィス化されれば、ソフトを(例えば実家の押し入れの中に)永続的に所有したり、人に貸したり、ゲームショップで買い取ってもらったりといった自由はない。

モノの流通にかかわっていた企業が産業から除外され、サーヴィスとしてゲームが流通するようになると、ゲームはユーザーと企業の関係性のなかにのみ存在するようになった。企業が充分な収益を上げていればこの関係は続く、つまりサーヴィスとして供給され続ける。しかし、企業が収益性はないと判断すれば、たちまちソフトはユーザーのライブラリから消えてしまう。いままで財産を費やして購入したアイテムも、である。

恋愛モバイルゲーム「ラブプラス EVERY」の運営が終了するとアナウンスされた際、Twitterの公式アカウントにはユーザーから悲痛のコメントが寄せられた。「オフライン版マジで頼むよ」、「せめてAR撮影機能と3Dデートだけでもサーヴィス終了後に起動できるようにしてもらえませんか」。ゲームに課金して愛を育んできたヴァーチャルの彼女たちはサーヴィス終了とともに消える(二度とプレイできなくなる)。その悲痛さは想像して余りある。

新しいゲームの流通形態はユーザーにとっての“公正な取引”を実現しているだろうか。ゲーム企業やプラットフォーマーが事業の利益率を追求し、ユーザーがゲームを手に入れるという過程の利便性を追求した取引の形態は、ユーザーがソフトウェアの所有権を手放すという不自由さを強要しているのかもしれない。

多大な犠牲のうえで

ゲーム企業とユーザーとの関係は、いつになく密になった。いまでは、SNSや動画配信サーヴィス、オンラインストア、そしてゲームをサーヴィスとして提供するサーヴァーで互いが常につながっている。

前回の記事では、この深い関係からユーザーコミュニティが生まれ、フィードバックがコンテンツを改善し、新しいコンテンツが制作されるサイクルが回るという話を取り上げた。しかし違った視点で見れば、関係性を持続させるためにかつてないほどの企業のリソースが奪われ、そして皆が疲弊しているという負の側面が見えてくる。ゲーム企業はユーザーを飽きさせないために新しいコンテンツをつくり、イベントを企画し、コミュニティと対話し、SNSで発信し続けなければならない。全世界にファンを抱えている巨大なフランチャイズであれば、企業が休んでいる暇などない。

「フォートナイト」の大ヒットはエピックゲームズに膨大な収益をもたらしたが、同社で働く社員には膨大な仕事をもたらした。ゲームを世界最高のサーヴィスとして提供するためには、社員たちが身を粉にして長時間労働するしかなかった。

「Polygon」が実施した調査によれば、同作がヒットしたあと、社員は週に70時間の労働が当たり前になり、人によっては100時間近く働かざるを得ない状況に追い込まれたという。ゲーム産業においてクランチ(リリース前の追い込みで行なわれる過酷な労働)は長らく続いてきた“文化”とも言えるが、「フォートナイト」にはクランチが毎月、毎週のようにやってくるのだ。

Naughty Dogでの仕事は最高でもあり、最悪でもあると開発者は言う。業界で有数のデザイナーやエンジニアが集まり、「The Last of Us」のような評価の高いゲームの開発に携わることができる一方で、定時を過ぎても働かなければならないという社内文化が出来上がっており、働く人たちが長時間労働を暗黙のうちに了承している。最新作「The Last of Us Part II」について同社の開発者はこう答えている

「素晴らしいゲーム、ただし多大な犠牲のうえで 」

Game Developers Conference(GDC)がゲーム開発者4,000人に対して実施した調査では、回答者の半数近くが労働組合をつくるべきだと答えている。エピックゲームズだけではなく、ゲーム産業全体で常態化している劣悪な労働環境を改善するためだ。

2020年1月には全米通信労働組合(CWA)が声明を発表し、ゲーム企業で働く労働者の組合組成を後押しし始めた。少しずつではあるが、サーヴィス化によって過酷な労働に追いつめられている人たちの(悲痛な)声が世の中に届くようになってきたのだ。

関連記事:ゲーム業界には「普通の労働環境」が必要だ──米国で組合結成の動きが加速

ゲーム企業とユーザーの健全な関係

最初の手数料の話に戻ろう。エピックゲームズの“30パーセント”に対する挑戦は、ゲームをつくるあらゆる企業が利益を受けられるよう“公正な取引”を促すものだった。その考え方をさらに進めれば、ゲームの売り上げによって企業(つまりは株主や経営者)が利するのみならず、働く人たちが報われるような“公正な取引”が実現されるべきだ、と言えるだろう。ゲーム企業が最小のコストを目指して創り出したシステムが誰かの犠牲によって動いてはならない。

ゲームの流通が加速度的に変化し、ますます便利に面白いゲームをプレイできる環境が整う一方で、“公正ではない取引”が明るみになっている。ストアに、ゲーム企業に、プラットフォーマーに金を支払うことで、誰が得をして、誰が割りを食っているのか。何を犠牲にし、何が失われているのか。

エピックゲームズがブログで宣言していたことに偽りはないだろう。ゲーム企業で働く人々が魅力的なゲームを生み出し、成功をおさめること。結果としてユーザーが最高のゲームをプレイすること。これらの目標に向かってどのように“公正な取引”を実現するかは、ゲーム産業が直面している未解決の課題なのである。

著者: ” — wired.jp

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ゲーム業界ニュース

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Mine Sasaki

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著者: “jp.gamesindustry.biz編集部 — jp.gamesindustry.biz

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ゲーム業界ニュース

【月間総括】ソニーのEpic Gamesへの出資はPS5の高速SSDを開花させるのか –

Mine Sasaki

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 今月も,PS5の話を進めたい。
 ソニーは,2020年7月10日,米Epic Gamesに2.5億ドル(約270億円)を出資する方針を発表した。出資比率は1.4%としている。
 プレスリリースでは,吉田CEOが(おそらく)フォートナイトに言及しているように思われた。しかし、エース経済研究所で独自にソニーにヒアリングしたところ,「来年後半にリリース予定のUnreal Engine 5のデモがPS5で行われたように,将来を見据えたものであり,自社でもPS4・PSVR用タイトルの開発にUnreal Engine 4を利用していることなどから出資を決めた」としている。

 つまり,本命は,本命は,前回指摘した「汎用エンジン対応による高速SSDへの最適化」であろう。実際,このヒアリングでも,ソニーに対するヒアリングでも,出資を通じて,Epic Gamesは次世代のゲームエンジンUnreal Engine 5で高速SSDへの最適化を行うとの感触を得た。

 これは,Wii UとXbox Oneの教訓を生かしたものだと考えている。両機には,メインチップに組み込みメモリが搭載されていたが,ゲームエンジンが対応しなかったため,ほとんど活かされることはなかった。任天堂と,Microsoftの誤算は,開発費の高騰で,自社エンジンから汎用エンジンへの移行が想定以上に早く進んでしまったこともあるだろう。エンジン対応がなくても高速SSDは通常のロード/セーブで十分な速度を出すのは間違いない。しかしエンジンの対応があれば,せっかくの高速SSDをさらに生かすことができるということだ。
 その轍を避けるべく,SIEは,Epic Gamesに出資することでPS5の高速SSD対応を行ってもらおうと考えたということである。
 どちらにせよ,SIEが実効性能を認め,高速SSDの実効化に積極的に動いていることは大変良いことではないだろうか。個人的には,Cerny氏が方針を変えたことで,このように実効性能を認めていただけるのは大変嬉しいことである。

 ただ,ソニーは戦略的出資としているが,その言葉とは裏腹に,戦略的には特段の意味はなさそうで,主にマーケティング的な意味合いが強いものだろう。
 そう考える理由は,主に2つだ。1つめは,Unreal Engine 5の投入が来年以降で(プレビュー版が2021年初頭,正式版が2021年末),それを使ったゲームが出る頃には,すでにPS5の趨勢は決着がついていると見ていることである。
 2つめは,ロード速度とゲーム機の成否に相関性が見られないことである。ロード時間が短いとは言い難いPS1,PS2も商業的には大成功であった。一方,任天堂では,ロード時間の短さが売りであったニンテンドー64,GCは失敗しているがファミコン,ニンテンドーDS,Switchとロードが速いマシンで成功事例があり,相関性は低いと言わざるを得ない。
 やはり,マーケティング的に,Unreal EngineはPS5に最適化されているという点を強調したいのだろう。

 ところで,もう1つ大きなニュースがあった。日経ブルームバーグが相次いで,PS5の増産報道を行ったことである(関連記事)。

 日経とブルームバーグで900万台か1000万台と台数には差異があるが,どちらも,年内の生産数を以前の目標よりも引き上げるということのようである。予約が始まっていない段階での増産決定は,奇異に映る方も多いかと思うが,これは前回も指摘した大きさとも関連があると見ている。
 まず,注意してほしいのは,年内の生産分がすべて年内に届くわけではない点である。実際に,年内に供給できる台数はこの数字よりもずいぶん少ないだろう。3月までならば,世界の多くの顧客に届くはずである。PS4が初年度750万台の売上台数だったことと考えると,これは十分な生産台数と言えるだろう。

 では,年内の生産分が何故,年内に届かないのか? それは,輸送にボトルネックが存在するからである。これまでSIEは,需要が高まるとゲーム機の空輸を行っていたと認識している。しかし,今回は2つの理由により空輸は困難であると見ている。空輸の場合,燃費に係わるので重量物に対する輸送料が高くなる傾向がある。PS3の初期モデル以上の重量だと推測されるPS5はコストがかかりすぎて現実的ではないのである。
 もう1つは,新型コロナウイルスの影響も見逃せない。現在,各国ともに入国制限を実施している関係で世界的な旅客機の移動が難しくなっている。このために,旅客機と同時に貨物を乗せることが難しくなっているのである。データが日本しかないのが残念であるが,日本の航空輸入の実績は,5月が前年同月比−23%と大きく落ち込んだ(参考URL)。

 そして,空輸というと前回指摘したように初期型PS3が使ったようなチャーター機を使う手段を思い浮かべるかもしれないが,初期型PS3以上のサイズとなるPS5では片道分で済む旅客機混載の貨物と違い,往復の輸送料がかかるチャーター機はとても現実的な輸送手段として使えないと考えている。

 飛行機が使えないということは,PS5が需要の変動に機動的に対応することができないということを意味している。Switchの品薄の時にも述べたが,中国や日本から米国,欧州に船便で輸送すると優に1カ月はかかってしまう(下図参照)。
 今回の増産が事実だとすると,SIEが売れると確信したからではなく,輸送上の制約による機会ロスが起こるのを恐れ,予約も始まっていない段階で増産するしかないということなのだ。

(出所)ヒアリングやエース経済研究所の推計より作成

 PS5は,その巨大なサイズが大きな影響を与えているように見える。過去の例を見ても,大きいサイズのゲーム機が成功した事例は見られないのである。にも拘わらず,輸送コストの上昇,機動的な生産調整ができないというデメリットを覚悟のうえで,このサイズを選んだのは,その高性能が影響している。

 おそらく,このようなロジックに基づく結果だと思われる。
 「ゲームソフトこそが販売の決定的要因である。とくに,サードパーティのフォトリアルAAAタイトルが雌雄を決する。であるならば,性能を一定水準にしないと,ゲームソフトが供給されず,プラットフォームビジネスが維持できない」

 これが大前提だと考えるとPS5とXBOX series Xが高性能で巨大なゲーム機なのも説明が付く。問題は「これが事実なのか?」である。

 エース経済研究所では,ユーザーは,高性能なゲーム機を求めている訳ではないと考えている。こう言うと驚く方が多いと思うが,データ的にも明らかである。
 性能が低いとされるWii,Switchは,高性能とされるPS4の四半期の販売(着荷)データを比較しても遜色がなく,性能が低くても高くても販売に相関性があるように感じられない。とくにPS4は性能的に同一なのに,日本と海外で勢いに顕著な差が出た。ユーザーが一律に性能を求めているなら,このような差は起こらないはずである。

●販売(着荷)台数推移

(出所)決算資料より,エース経済研究所
【月間総括】ソニーのEpic Gamesへの出資はPS5の高速SSDを開花させるのか

 結局のところ,PS5のこのサイズは,サードパーティの要望を聞いた結果だということなのであろう。そして,SIEとMicrosoftにとって,意見を求めるべきはユーザーではないと考えている風に見える。

 ユーザーは果たして大きなゲーム機を望んでいるのだろうか? エース経済研究所では,疑問に思えるが,杞憂と思う方も多いかもしれない。これが杞憂かどうかは,来年には明らかになっているだろう。



著者: “jp.gamesindustry.biz編集部 — jp.gamesindustry.biz

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ゲーム業界ニュース

人間と見分けが付かないほど高精度な文章を生成するAI「GPT-3」について哲学者らはどう考えているのか? –

Mine Sasaki

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メモ



人工知能を研究する非営利団体のOpenAIが開発した言語モデル「GPT-3」は、人間が書いたものと見分けが付かないほど高精度な文章を生成できるとして大きな注目を集めています。そんなGPT-3によって提起されたさまざまな課題や議論について、9人の哲学者らが各々の意見を述べています。

Philosophers On GPT-3 – Daily Nous
http://dailynous.com/2020/07/30/philosophers-gpt-3/


◆1:ニューヨーク大学 デイヴィッド・チャーマーズ教授
チャーマーズ氏はGPT-3が基本的に前世代であるGPT-2の拡張バージョンであり、主要な新技術が含まれているわけではないと指摘。その一方で、GPT-3には1750億個ものパラメーターが含まれており、はるかに多くのデータで訓練されたことにより、これまで作られたAIの中で最も興味深いものの1つになったと述べています。

チャーマーズ氏はGPT-3がマシンと人間を判別する「チューリング・テスト」で、これまでに作られたどのAIよりも合格に近づいた点にも触れ、GPT-3が1つの分野だけに特化した人工知能(AI)ではなく、一般的な知性を持つ「汎用人工知能(AGI)」のヒントにもなると考えているとのこと。

その一方で、GPT-3は多くの哲学的課題を提起したとチャーマーズ氏は述べ、訓練に使われるデータによるバイアス、人間の労働者から仕事を奪う可能性、悪事や詐欺などに使われる危険性など、多くの倫理的な課題が存在すると主張しています。また、GPT-3は「テキストを完成させる」といった目的以上の好みは持たない純粋な言語システムなので、「幸福」や「怒り」を本当に理解することは難しいのではないかとチャーマーズ氏は考えています。


◆2:OpenAI ポリシーチーム研究員 Amanda Askell
Askell氏は、GPT-3は多くのデータで訓練することによって複雑さを取り込み、いくつかの指示を与えるだけで細かい微調整をせずにタスクを完了させられる点が興味深いと述べています。その一方で、ほとんどのタスクでGPT-3は人間のレベルにほど遠く、コンテキスト全体で一貫したアイデンティティや信念を保つこともできないと指摘。

Askell氏は多くの哲学者らがGPT-3のような人工知能モデルについて考え、予測していることに興奮すると述べており、言語モデルの限界についての議論が哲学者らによって明確になると期待しています。将来的に言語モデルも「言語以外の世界」に触れるべくデータの範囲を広げるべきなのか、あるいは機械学習モデルの道徳的地位やAIにおける「知覚」の指標についても、今から考え始めるべきだとAskell氏は主張しました。

◆3:サンフランシスコ州立大学 Carlos Montemayor教授
Montemayor氏は「GPT-3とのやり取りは不気味です」とコメント。人間は言語能力の点で他の動物や機械よりも特に優れていると考えられてきましたが、もし機械が平均的な人間によりも優れた回答を出せる場合、前提が揺らぎます。それほどまでに優れた言語能力を持つGPT-3は、人間中心主義的な価値観からは嫌悪されるかもしれませんが、人間の知能と言語における関係を正確に理解するためのステップになり得るとのこと。

一方で、AIがチューリングテストを乗り越えるまでには長い道のりが存在しており、「人間が言語を使う目的」も重要な質問になってくるとMontemayor氏は指摘しています。社会生活の中では、単に言語を用いて意味論的情報を体系的にエンコードすることだけが重要なのではありません。言葉を交わす場の状況や相互の期待、行動のパターンといった点に注意を払う必要もあるため、GPT-3は真のコミュニケーションを行うことができるAIからはほど遠いとのことです。


◆4:プリンストン大学 Annette Zimmermann博士
Zimmermann氏は、GPT-3がもたらした驚くべき結果にAIコミュニティは有頂天になったものの、「他のAIと同様に歴史的な偏見や不平等のパターンを受け継いでいる」という欠点も引き継いでいることを指摘。機械学習アルゴリズムの開発においてデータセットに含まれる偏見や差別は大きな問題であり、複雑な道徳的・社会的・政治的な問題空間があることを示唆しているとのこと。

AIの設計において社会的意味と言語的な文脈は非常に重要であり、テクノロジーが不正や差別を定着させることがないように、研究者らは慎重に検討して議論を重ねる必要があるとZimmermann氏は述べています。また、より公正な世界を生み出すAIを設計する上でチューリングテストのように「人間」を基準にする必要はなく、より望ましいAIを作るためなら自分自身や現代社会を評価の基準にするべきではないと主張しました。

◆5:マサチューセッツ工科大学 Justin Khoo准教授
Khoo氏は、AIを利用したスピーチが生成されるようになったことで、合理的な議論を阻害するボットに対する規制に取り組む必要が生じたと主張しています。ボットが生成するスピーチはオウムが人間の言葉を繰り返すようなものであり、「保護されるべき自由な言論」には当てはまらないとKhoo氏は考えています。

「ボットの規制は、ボットを操作するユーザーから言論の自由を奪うものではないか」との指摘があることはKhoo氏も認めています。しかし、そもそも言論の自由を守る目的は、人々が意見を自由に共有して議論を行い、真実を発見する試みを守ることにあると指摘。ボットは人々の合理的な関与を妨害するものであるため、暴力の扇動や犯罪目的の発言などと同様に規制されるべきであり、「言論の自由を守るためにスピーチボットを規制する必要がある」とKhoo氏は論じました。


◆6:ヨーク大学 Regina Rini助教授
Rini氏はGPT-3や現代のAIは人間と同様の精神を持った存在ではないものの、単なる機械とも違う存在だと指摘。GPT-3はRedditの投稿やWikipediaの記事、ニュース記事などを基に、何百万もの心を統計的に抽象化して表したものだとRini氏は考えています。

インターネット上で人々が行っているやり取りの多くは特定のタスクに基づいたシンプルなものであり、すでに一部のボットやチャットサービスがインターネット上で運用されている以上、やがてGPT-3の後継がインターネット上での会話型シミュレーションボットとして使用されることは目に見えています。未来の世界では人間と見分けが付かないAIがインターネット上で活動し、インターネットの向こう側にいる個人の存在があやふやになる時代が来るかもしれないとRini氏は指摘。誰もインターネット越しの「あなた」を認識できない時代で、自分がどう思うのかについてを考える価値があるとのことです。

◆7:ユタ大学 C. Thi Nguyen准教授
Nguyen氏は、GPT-3が「芸術やゲームを生み出す真に創造的なAI」を構築する夢に向けた一歩だと主張しています。しかし、「芸術を生み出すAI」のアイデア自体に反対意見はないものの、AIが生み出す芸術やゲームから経済的利益を得る上でターゲットとなる子どもたち、企業や機関がAIを使って製品を生み出す方法、そしてトレーニングデータのバイアスについて懸念があるとのこと。

企業や機関がAIを生み出すためのデータセットとして管理できるのは、「測定可能なもの」に限られています。そのため、「よい芸術作品」を作ろうとした際のデータセットにおける評価基準は、誰かの手による「よい」「悪い」といったタグ付けや、人々がレビューサイトに投稿した「星」の数、視聴回数などに基づくものとなり、芸術の繊細で微妙な価値を取りこぼす恐れがあるとNguyen氏は指摘。すでにゲーム業界では「中毒性」が評価されるようになっており、GPT-3などのAIから生み出されるゲームにも同様の問題が生じる可能性があるとNguyen氏は考えています。


◆8:ケンブリッジ大学 Henry Shevlin博士
Shevlin氏はGPT-3を使用して、2015年に亡くなった作家のテリー・プラチェット氏との(PDFファイル)模擬インタビューを再現したとのこと。しかし、模擬インタビューはプラチェット氏の作品に関する楽しい会話ではなく、恐ろしく実存的な会話が交わされたとのことで、相手が人間ではないと知っていても緊張してしまったとShevlin氏は述べました。

GPT-3の登場はフェイクニュースの作成や人間の労働者をAIに置き換える動き、訓練データに含まれるバイアスの問題など、AI倫理の分野にとって大きな課題をもたらしています。これにより、人文科学の分野に属する学者であっても初歩的な技術的知識と理解を身に付け、テクノロジー企業によって生み出される新たなツールに取り組む必要性が高まっているそうです。

◆9:エディンバラ大学 Shannon Vallor教授
新たなテクノロジーに関する哲学を研究しているVallor氏は、GPT-3が興味深い短編小説や詩を作成するだけでなく、時には実行可能なHTMLコードも作成できる結果は印象的だと認めています。その一方で、GPT-3をすぐに汎用人工知能などと結び付けて考えることは行き過ぎであり、誇大宣伝の面もあるとのこと。

AIが超えられないハードルはそのパフォーマンスではなく「理解」であるとVallor氏は指摘し、理解は単なる瞬間的な行為ではなく持続的で生涯にわたる社会労働だと主張しています。世界を構成する他の人や物、時間、場所との変化し続ける感覚を構築し、修復し、強化する「理解」という日々の営みは知能の基本的な構成要素であり、予測的で生成的なモデルであるGPT-3はこれを達成できないとVallor氏は述べました。


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著者: ” — gigazine.net

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